いい仕事をすれば、仕事はおもしろい〜倉貫書房で伝えたかったこと

ある編集者の方に「倉貫書房として一番伝えたいことは何ですか」と聞かれたことがありました。私の答えは「いい仕事をしたい。そして、いい仕事をすれば、仕事はおもしろい。」でした。

ここ数年は、「仕事は必要悪だ」「仕事は減らすべきだ」。そんな空気が当たり前になっています。でも、本当にそうでしょうか。

一方で、ビジネス系のコンテンツは人気を増しています。それなのに、「仕事がおもしろい」という声はあまり聞こえてこない。この不思議なねじれの中に、見落とされている領域があるように思います。

この記事では、「仕事はおもしろい」がなぜ語られにくいのか、その構造を整理しながら考えてみます。

お金しか残らない仕事と、体験が残る仕事

仕事をしても、残るのはお金くらいのもの。そう感じている人は少なくないのではないでしょうか。

大きな事業の中で、分業された一部分だけを担う仕事。自分が何のために手を動かしているのか見えにくく、全体の成果を実感できません。お金は入るけれど、何かが消耗していく。その仕事が悪いわけではなく、構造的に仕事のおもしろさを感じにくい状態に置かれてしまっているのです。

そういう仕事であれば、結果だけ効率よく得たいと考えるのは当然のことだと思います。コスパやタイパを求めるのもわかります。人間関係だって煩わしいだけでしょう。「仕事は減らすもの」「仕事は必要悪」という風潮は、こうした経験から来ているのだと思います。

しかし、それとは別の世界があります。

最初から最後まで自分で手がけて、プロセスそのものに充実がある仕事。終わった後に、お金だけでなく、経験や技や手応え、豊かな人間関係や思い出が自分の中に残る仕事です。そういう仕事が、この世の中にはあるのです。

「仕事が充実している」と言えない空気

こんな話を聞いたことがあります。仕事に夢中で取り組んでいる若い人が、友人との食事の場で趣味や遊びの話をしている中で、「自分は仕事でこういうことに充実している」と話したら、かわいそうな目で見られた、と。そういえば私の若い頃にもありました。

趣味で充実しているのはいいのに、仕事で充実しているのはなぜダメなのか。

ワークライフバランスという言葉は、もともと仕事と生活の両方を充実させようという考え方だったはずです。しかしいつの間にか、「仕事は悪いもの」「仕事は減らすべきもの」という意味に変質してしまっています。とはいえ、仕事をゼロにはできません。そうであれば、仕事をつらいものとして耐えるより、おもしろいものとして取り組めた方が良いと思いませんか。

「お金しか残らない仕事」しか知らなければ、そう思うのも無理はありません。でも、仕事には別の姿もあるのです。

「仕事のプロセス」を語る人がいない

ビジネス系の動画やノウハウ本は、相変わらず人気があります。みんなビジネスの話が嫌いなわけではありません。

しかし、そこで語られているのは「成果を出すためのハック」「年収を上げるノウハウ」が中心です。結果を効率よく得るための攻略法です。書籍の要約サービスが流行るのも同じ構造で、本を読むプロセスを楽しむのではなく、結果としての知識を効率よく手に入れたいから要約で済ませてしまうのでしょう。

仕事も本も、プロセスをすっ飛ばして結果だけ取りに行く。これが今の時代の基本姿勢になっています。

しかし、ゲームをしていてエンディングだけを目的に遊ぶ人はいません。旅をしていて、目的地に着くことだけを目指すのは味気ないでしょう。プロセスそのものに楽しさがあることを、本当はみんな知っているはずです。なのに、仕事になると途端にそれを忘れてしまう。

「仕事のプロセス自体がおもしろい」という声はあまり聞こえてきません。しかし本当に大事なのは、まさにそこではないでしょうか。結果ではなく、やっていること自体に喜びがある、という話です。

ぽっかり空いたポジション

世の中の言説を「結果志向か、プロセス志向か」と「仕事か、生活か」の二軸で整理すると、四つの象限が見えてきます。

「結果志向×仕事」は、稼ぐために働く世界です。結果がすべて。極端に言えば、結果さえ得られるなら仕事そのものはなくしたいとさえ思っているように見える。

「結果志向×生活」は、効率よく生きるライフハック的な暮らし。「プロセス志向×生活」は、丁寧な暮らしやスローライフで生活自体に喜びを見出している。

そして「プロセス志向×仕事」——いい仕事をする、遊ぶように働く。この象限が、ぽっかり空いているように見えます。

仕事から離れたい人が向かう先は、たいてい「丁寧な暮らし」や「スローライフ」の方向です。しかしそれは、仕事というものを「結果を追うだけの消耗戦」としか捉えていないからではないでしょうか。仕事に対する解像度を上げれば、プロセスを大事にする「いい仕事」という領域があることに気づきます。

仕事自体を楽しむ。この当たり前のようで誰も語っていないポジションこそ、倉貫書房が届けたいメッセージの居場所です。

セロトニン的なおもしろさ

結果を追うおもしろさも、もちろんあります。数字が伸びる快感、競争に勝つ高揚感。ただそれは、中毒性のあるアッパー系の快楽です。アドレナリン的なおもしろさと言ってもいいかもしれません。

ここで言いたいのは、それとは違うおもしろさです。じわーっと、ずっと続くおもしろさ。仕事に没頭しているときの静かな充実感。セロトニン的なおもしろさです。

「おもしろい」という言葉を使うと、どうしてもアドレナリン的な方に理解が引っ張られてしまいます。だからこそ、この違いをちゃんと言葉にしなければいけないと思っています。

効率化の先にある仕事

ここまで読んで、「プロセスを大事にするとは、のんびりやるということか」と思われるかもしれません。それは違います。

私たちの会社でも、効率化にはずっと取り組んできました。その中で気づいたのは、やり方を速くすることよりも、やらなくていいことを見つけてやめていくことの方が大きいということです。どれだけ効率的にやっても、そもそも不要なことをやっていれば意味がありません。「これは本当に必要か」を問い続けて、やらないことを増やしていく。そうすることで、さらに効率化されていきます。

背伸びをして、赤字を掘ってでも売上を拡大するようなことはしません。身の丈の中でベストを尽くす。外への膨張ではなく、内側を研ぎ澄ませる。その違いです。

効率化は、仕事のプロセスを楽しむための前提条件でもあります。無駄な作業に追われていたら、仕事をおもしろいとは思えません。効率化した先にこそ、仕事そのものに向き合える時間が生まれるのです。

「仕事はおもしろい」を届けたい

世の中には、仕事がおもしろいと思っている人がたくさんいます。でも今は、それを堂々と口にしづらい時代です。マイノリティになってしまっているように感じます。

その人たちが読んで、少しでも勇気づけられるものを作りたい。仕事がおもしろいと感じている人には「自分はおかしくなかった」と思ってもらえるように。仕事がつまらないと感じている人には「こんな考え方もあるのか」と知ってもらえるように。そんな思いで、倉貫書房を立ち上げました。

倉貫書房の最新刊は、仕事エンタメ小説シリーズ第二弾『新米マネージャー、最悪な未来を変える』(長瀬光弘著)です。新しくマネージャーになった主人公が、チームとの向き合い方に悩みながら成長していく物語です。ビジネス書ではなく小説という形で、仕事のおもしろさを届けたいという思いで刊行しています。

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倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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